2022年10月19日水曜日

第5波の中での保健師の声

学習会報告②保健所の実態

これは、新型コロナウイルス第5波期間における保健所職員の実態調査(東京自治労連)に寄せられた保健師さんたちの声の一部です。実態調査は、都内の保健所と保健センターで働く職員を対象に、新型コロナウイルス感染症第5波の期間中、2021年12月17日から2022年1月28日まで行い、577人の職員から回答を得ました。

1.コロナ禍の保健所で、困ったことや改善すべきこと

◇コロナ対応によって圧迫された通常業務については、超過勤務で対応しなければならなかったが、予算の都合上、超過勤務として申請しても未払いになると知り、努力が報われない気がした。

◇何でもかんでも保健師へ相談と言われてしまうと、本来行うべき疫学調査等の仕事に支障が出て大変困った。住民の皆さまの不安が強いのはわかるが、心ない発言、暴言、怒声を何十分も聞かされトラウマになった。

◇区民からの厳しい意見も多く、超過勤務が多い疲弊した心身にはこうした意見への対応が、すごく大きな負担になりました。余裕を持って、区民に対応できるよう、人員確保は必須であると考えます。

◇先の見通しが立たない中で、いつまでこの状況が続くのかという不安を常に抱えていた。そういった気持ちの中で、都民の方からの苦情等にも真摯に対応しなければならなかった時は心身ともに大変であった。

◇重症、受診や入院体制が整わない中で、命の危機にある人へ「待ってほしい」しか言えないことや、ハードクレームなど何時間も繰り返し、精神的にダメージがとても大きい。寝れない。対応して亡くなる人も多く、責められることも多くつらい。

◇保健師にしかできないことではないのに、全て保健師に仕事をふられていた。区全体で人員不足・自分の仕事も回らない。保健所の業務はキャパオーバー。年末年始も仕事をやらせておいて、17:15になったら暖房が切れてっしまっていた。職員の健康管理はどうなるんだと感じた。職員のことをもっと大切にしてほしい。

◇コロナ禍でおこる問題はコロナ感染だけでなく、虐待、精神保健、育児不安、収入減による生活不安などあり、その多くは心身の問題に保健師が業務として関わっていることを念頭において配置をしてほしい。

◇常勤職員でも保健師の奪い合いが自治体間でも起こりつつある。自分の子育ても全く行えず、当時2歳だった娘の後追いが再発したり、トイレトレーニングも行えなかった。帰宅が23時のこともあり、なすすべがなかった。

◇世田谷では人口が多く、1カ所で集中対応するのは困難である。

◇感染症業務以外が置きざりにされた。所長や事務管理職には潜在的な問題が見えていない。子育て中・メンタルヘルス不調などの職員にまで負荷をかけることになった。普段からギリギリの人員の中、応援に人が出せない。平時から緊急対応(地震、水害等含む)できる人員体制を確保すべき。

◇コロナ患者さんの対応の中で心無い言葉、怒りを向けられることが多く心が疲弊してしまいます。休みなく朝から夜までの勤務に途中めまいがし、長く勤められる気がしません。

2.「応援体制によって起きた問題点」と「職場のあり方」

◇応援に来てもらったことは大変有り難かったが、送り出した職場は負担が増えたり応援を受け入れる側はマニュアル整備等が発生したりした。やはり普段から感染症に従事する職員を増やした方が良いと感じた。

◇応援を出している間は人員不足はもちろん、その間に対応できなかった仕事はその後自分でやらなければならず、区民サービスの遅れや悪化してからの対応になった。

◇通常業務が時間内に終わらない。常に人員不足で有給が取れない。退職や病欠も増えたように思う。保健師のスキルアップの時間が取れず、専門職の質の維持ができない。応援へ行っても日々マニュアルが変わり、力が発揮できない。応援職員では責任の所在が不明確になりやすい。

◇通常の検診や相談業務を行うにあたり、従事する職員が減り、検診等に従事することになると、訪問や面接など地区活動、予防活動にさける時間が著しく減った。

◇ダブルワークでヘトヘトになった。代休がとれない。地区の健康サービスの低下をひきおこした。いつも担当が不在で、ケースからクレーム。地区の健康課題にとりくみたくてもコロナに時間がとられ、自分の健康をふりかえる余裕がない。

◇応援を出した職場で人員不足が起きた。平常業務を少ない人数で対応。集団健らなどでは待ち時間を長引かせることもあった。本来であればすぐに訪問して対応できるケースでもすぐに行けなかったり、tel相談がきても何日も担当不在で対応できないこともあった。

3.人員体制と労働条件の課題

◇常勤職員保健師を保健所に集め応援体制をつくっていたが通常業務が滞り、母子保健・精神保健が手薄な支援になっている。保健所を通して療養場所を検討するやり方は限界がある。

◇コロナウイルス担当課は負担も大きいが、通常業務を行いながら応援(日勤)と夜勤、土日勤務を行う保健師の心理的負担はかなり思い。

◇人が足りない。保健所長が宣伝している内容と現場の人員補充に違いがある。そんなに多く増員されていない。

◇保健所の対応部署の課長に医師がなるべきと今回の感染症で改めて感じる。体制作りや専門知識の相談ができない。

◇人手をふやせばよいと事務・栄養士など保健師以外の多職種や新人保健師まで活用せざるをえなかった。質は明らかに低下し、フォローすることが大変だった

4.保健所の今後のあり方

◇通常業務の中で対応している住民はコロナ禍に関わらず必要な時には支援をしなければいけないため、マンパワーがあればコロナ禍のような緊急時でも通常業務で必要な対応が届けられたかと思った。

◇今回は感染症に焦点があてられましたが、精神保健や難病対策など、都民の多様性や貧困の問題など、これまで以上に対応が難しい事例が増えています。感染症対応ができるようになるためには、経験が必須であり、保健師の育成や動ける人員確保のための体制整備が急務である。人材は急には育ちません。「感染しない人が多かった」「予防活動は効果があった」ことを証明することは困難です。保健所の仕事は予防や危機を回避することが中心です。この効果は一般都民には分かりにくい(目に見えない)と思います。ここを理解してもらうことが必要だと思います。

◇健康は自己責任ではない。本当に支援するにはお金もハコも人も必要。

(まとめ)実態調査の自由記述欄ー全体の特徴

◇ 超過勤務時間

• 超過勤務時間については全職種で増加傾向が見られたが、感染症対応の職場で働く保健師と事務、衛生監視に超過勤務時間が集中していた。

• 超過勤務時間のピークは8月で、最大で保健師が150時間、事務が120時間であった。

• 一方、感染症対応ではない部署の職員は、同一の職種であっても、超勤時間に大きな増加がみられないケースもあった。

◇ 「人員体制と労働条件の課題」及び「保健所の人員配置のあり方」

• 全回答者の89%、常勤保健師の92%が「職員不足」と回答している。

• また、全回答者の83%、常勤保健師の92%が「常勤職員の増員が必要」と回答している。

• 人員体制の課題では、感染症対応に追われることによって、感染症以外の本来業務ができないとの回答が多い。人員不足を解消しなければ、保健所は機能不全に陥る可能性がある。

• 全職種で人員不足と回答しており、職の専門性を継承するためにも、常勤職員の人員増が切に求められている。

◇ 応援体制

• 応援体制について、応援する側、迎える側とも負担が増大した。

• 第5波では、急激な感染者の増加に保健所の体制整備(マニュアル整備、仕事の割り振りなど)が追いつかなかったため、感染症対応職員は応援職員に十分な説明(レクチャー)ができず、応援職員の業務を限定せざるを得なかった。

• また、感染症対策には保健師の中でもさらに専門性が必要であり、応援体制で感染症対応が十分機能したとはいえなかった。

• 感染症対応の経験の少ない若手保健師などは、相談ができない状況で感染症対策に対応せざるを得ないことも心身の負担になった。

• 応援職員は感染症対応と本来業務のダブルワークになり、時間外や休日に元職場で日常業務を実施せざるを得ず、休日出勤や超勤が増加した。また、応援に行くことで「本来業務に影響した」と回答している。

◇ 今後のあり方

• 常勤職員の増員が絶対的に必要である。取り分け、常勤の保健師を増員しなければ、感染症対応はおろか、保健師の多様な本来業務をこなすこともできなくなる
保健所職員の実態調査


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